きっかけは"食べる"ということから②

こんにちは。管理栄養士の木富です。
今日は、今回のタイトル『"食べる"ということから考えること』を書こうという気持ちになったきっかけの話を書きたいと思います。
お読みいただきコメントなどいただけたら嬉しいです。
4.私の考え方を変えるきっかけと
   自身の体験

4.私の考え方を変えるきっかけと
   自身の体験

80代後半のAさんは施設に入居以来ずっと食事量が少なく、体重が大きく減少しました。ご家族はとても心配され食事の時に合わせて面会に来て、ご本人に付き添ってくれます。介護職員が食事介助に入りますが、認知症もあり、その日の体調や気分により食事を進めるポイントが変わります。ご家族はなんとか食べてもらえるようにリズムを付けたり音楽をかけたり、さまざまな声かけを行なってくれました。
ご家族はもっとゆったり食事の時間を取ればもう少し食べる量が増えるのではないか、自分が来れない日も同じような声かけや食事の場所を工夫できないか、食事の盛り付けや味付けに工夫ができないか、
いろいろなことを積極的に投げかけて来てくださいました。
ところが、実はこの時、施設全体が揺れ始めていました。入居者は1人だけではない、その方だけに時間はかけられない、と、いう声が上がっていたのです…

少し話が逸れますが…
私自身、認知症で3年間介護をしていた夫の父を昨年10月に看取りました。
実家で義母が介護をしていましたが、体力的にも精神的にも義母の限界を迎え、老健を経て特養で最期を迎えました。
老健に入ることができて私たち家族は助かりましたが、知らないうちに食事形態は変わっていき、車いすから勝手に立ち上がって転倒するためチルト式の角度が付く車いすになって立ち上がれないようにされ、大きな声を出してしまう為なのか、部屋に1人きりでベッドに寝ていることが多くなり、ついこの前まで家で歩いていたのに、あっという間に足の関節が固まって寝たきりになって行きました。もっとこうしてくれたらいいのに…という要望が面会に行くたびに心の中に浮かびました。
でも言えませんでした。
自分も介護に関わる仕事をしているので、スタッフの激務は良く理解しています。
家族からいろいろ言われて困ることも知っています。だからこそ、遠慮して言えなかったのです。『ここでは看れないと出されてしまったら困るし、預かってもらえるだけでありがたい、特養に空きが出るまではここに居させてもらわないと…』そう思って言えずにいました。
義父は誤嚥性肺炎も繰り返していました。
私は仕事で誤嚥性肺炎予防について、偉そうに語っているのに、自分の家族は誤嚥性肺炎を繰り返していることは本当に自分が情けなかったです。ほどなくして特養に空きが出て、特養に入所することができました。
老健に入所していた5ヶ月間で義父は足が拘縮し立ち上がることもできない寝たきりになり、ミキサー食を食べ、褥瘡ができている状態になっていました。特養に移った日、私たちが入所の手続きを行なっている間に昼食の時間となりました。そこで義父の昼食に普通食が提供されてしまったのですが、(しかもサンドイッチ‼︎) 慌てて確認してもらうと、義父はペロリと食べていたそうです。特養のケアマネさんとびっくりした出来事でした。
朝は老健でミキサー食を食べていた義父が普通食を食べることができた、老健では、ちゃんと義父を見ていたのだろうか?と疑問が湧きました。
特養に移り、義父は落ち着いた日々を過ごしていましたが、再び誤嚥性肺炎で熱発を繰り返すようになりました。そこまで来てようやく思い切って自分の職業と義父の口腔ケアをしたい気持ちを施設に打ち明けてみました。特養の皆さんは、とても協力的でやり方を教えてくださいとまで言ってくださいました。食べることはできなくなりましたが、特養の方の温かいご協力で、最期まで義父も私たち家族も安心して穏やかに過ごすことができたと思います。

話が逸れてしまいましたが、家族がお世話になっている病院や施設に、要望を伝えるということは、とても勇気がいる事なのです。
それは前述のAさんのご家族も同じはずです。多くの場合は、義父が老健にいた時の私のように目をつぶって我慢してしまうと思いますが、Aさんのご家族は要望を声に出して伝えることから逃げない方だったのです。
大勢のスタッフにたった1人で伝え続けるご家族の心の中は、Aさんを思う気持ちや施設に入れた自分への責任などいろいろな思いがあったと思います。
私はAさんのご家族と出会い、"口から食べることを諦めない"その思いに、心を揺さぶられました。自分がこれまで行なって来た食事の提案を振り返り、それで良いと思っていたことにものすごい違和感を感じました。
食事をするのには、さまざまなスタッフとの連携が必要です。関係各所との調整を気にして、現場に負担がかかりそうなことは提案しても実施するのは大変だからと諦め、見ないふりをして来てしまったことなど…
それでもだいたいのケースは、提案通りに受け入れられ、大きな問題も起きずにいました。でもそれこそが問題だったのかもしれません…
Aさんのケースは、諦めないご家族だったため、従来とは違う対応をすることを余儀なくされ、施設全体で1歩踏み込んだ新たな取り組みを始めることになって行きました。
どの利用者様やご家族にも、声に出せない思いがあるということを、介護に関わる職種の皆さんには、目をつぶらないで見てほしいですし、逃げないでほしいと思います。
私はこのケースからとても貴重な機会をいただいたと思っています。
皆さんはどう感じましたか?


食べる口を作る swallow

管理栄養士の木富れい子です。 いつまでもおいしく『口から食べたい』 という思いに寄り添い、 『食べる口を作る』取り組みをしています。 加齢により、食べる機能が低下して、 おいしく楽しいはずの食事が、 “誤嚥性肺炎” “窒息”など、 命を奪う悲しいものになることもあります。 摂食・嚥下にかかわる管理栄養士として今までの経験で得たこと、日々の気付きなどを 発信して行きたいと思います。

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